銀行員は簿記2級まで必要?元融資担当が取得のメリットを解説
- 銀行員に簿記は必須?
- 簿記はどんな業務で役立つ?
「とりあえず簿記は取っておけ。」
このように役席から指導された経験は無いでしょうか?金融機関で働くなら簿記は必須資格という印象を抱く人は多いです。
実際に簿記の知識が無いと融資業務で困ることが多いです。返済額に問題が無いか、融資額が妥当かといった判断のためには簿記の知識が不可欠。
せっかく申し込んでもらった案件なのに「売掛金が固定化していますよね?不良資産とみなすと、実質債務超過なのですが・・・」と審査部や保証協会の担当から指摘されて、困った経験がある方も多いのでは?
簿記を勉強すれば、財務分析に必要な知識が身に付きます。融資判断だけでなく、本業支援業務に役立つことも可能。企業との取引に深く関わる銀行に必須の知識と言えます。
- 銀行員に必須の資格が簿記
- 融資業務に携わるなら簿記2級まで取得しておきたい
- 簿記は渉外・融資・審査・債権管理業務で役立つ
級数 | 3級 | 2級 |
おすすめ度 | (4.5 / 5.0) | (5.0 / 5.0) |
難易度 | (2.0 / 5.0) | (3.5 / 5.0) |
勉強時間 | 50〜70時間 | 200〜300時間 |
試験内容 | 商業簿記 | 商業簿記、工業簿記 |
コメント | 融資業務に携わるならほぼ必須 | 財務分析で役立つ知識が身に付く |
この記事は日商簿記3級・2級取得者の私が解説します。
銀行員は簿記何級まで必要?
銀行で働くなら簿記2級まで取得がおすすめです。
簿記の級別比較表
まずは級別に簿記試験の難易度を見てみましょう。
級数 | 初級 | 3級 | 2級 | 1級 |
学習範囲 | 簿記の基本用語や複式簿記 | 商業簿記 | 商業簿記 工業簿記 | 商業簿記 会計学 工業簿記 原価計算 |
勉強時間 | 50時間 | 50~70時間 | 200~300時間 | 500~700時間 |
合格率 | 60%程度 | 40~50%程度 | 20~30%程度 | 10%程度 |
日商簿記は受験資格がないため、いきなり1級から受験できます。(取得の難易度を考えると現実的ではありませんが・・・)
もちろん初級からの受験も可能。しかし新人研修で簿記に関する知識を一通り習得した方なら、3級からの受験がおすすめです。
融資業務に役立てるのは2級まで必要
融資業務に携わるなら簿記2級まで取得しておきたいところ。
2級には出題分野に損益分岐点分析や減価償却の計算、引当金の計算など融資業務と関わりのテーマが加わります。
2級を学習しておけば通常の融資では、財務分析に悩むことはほとんどなくなるでしょう。
3級は意味ない?
簿記3級の取得には意味が無いのでしょうか?
簿記は数学と同様に積み上げが重要な学問です。このため初歩から勉強することが重要です。しかし「実務で役立つ」という観点で厳しいかもしれません。
- 仕訳
- 残高試算表の作成
上記が簿記3級の試験範囲。重要なテーマですが基礎的で、融資業務に役立つほどの知識が身につかないでしょう。
簿記初心者の方は3級から勉強しましょう。実務で役立つ知識ではありませんが、今後役立つ知識です。
銀行員が簿記を取得するメリット
「簿記2級まで必要っていうのはわかったけど、メリットはあるの?」と感じた方がいるかもしれません。
特に銀行で働く上で次のようなメリットが得られます。
- 顧客との対話で役立つ
- 財務分析で役立つ
- 出世に必要
- 極めれば専門部署に異動できる
- 転職で役立つ
顧客との対話で役立つ
保有している資格は名刺に書くと渉外活動の際にアピールできます。
「日商簿記2級取得」と名刺に書かれていれば「この担当はある程度財務の知識があるんだな。」と取引先の顧客が安心して話してくれるでしょう。
簿記3級は名刺に書いても「銀行に勤めているのに3級までの知識しかないの?」と思われかねませんので、2級以上は取得しておきたいところ。
財務分析で役立つ
簿記の知識は融資業務で必要な財務分析に役立ちます。
現在では帳票などで返済CFなどの財務指標は自動計算されます。とはいえ貸借対照表や損益計算書が読めないと融資業務を行うのは難しいでしょう。
融資は財務だけではなく様々な観点から判断しますが、決算書では次のポイントを重要視する方が多いのではないでしょうか。
- 利益の増減と今後の傾向
- 売上債権が固定化していないか
- 返済額が簡易CFの範囲内か
- 減価償却費に不足額はないか
- 他の金融機関の取引状況
上記のポイントは簿記ができないと理解が難しいです。まずは簿記を勉強して、さらに銀行業務検定の財務などの試験で理解を深めましょう。
出世に必要
支店長には基本的に融資の決裁権限を持っています。
貸す・貸さないの判断を行うのが重要な業務の一つ。ということは財務諸表を読むための簿記の知識がなければ、支店長になることは厳しいでしょう。
極めれば専門部署に異動できる
簿記への理解が深まれば、融資業務と経理業務の必要な部署で重宝される人材になります。
- 法人融資担当
- 審査部・債権管理部
- 経営企画部・総務部・経理部
法人融資担当
花形営業とも呼ばれる法人融資担当には財務や簿記の知識が必須です。
簿記の知識があれば、決算内容の数字をもとに融資の必要理由を論理立てて説明できます。合議や本部との案件調整もスムーズにこなせるでしょう。
審査部・債権管理部
審査部や債権管理部は全店の中でも融資の専門家が集まる部署。難易度の高い融資案件を多く扱うため簿記の知識が必須。
簿記資格を取得すれば、審査部や債権管理部へ抜てきされる可能性があります。
経営企画部・総務部・経理部
銀行内でも経理が必要な部署はあります。
銀行により役割は異なりますが経営企画部・総務部・経理部などは簿記に関するプロフェッショナルが集まる部署。日商簿記1級や税理士取得を目指す方もいます。
簿記を勉強して「もっと勉強して極めたい。」と感じたら、専門部署に異動を希望するのもいいかもしれません。
転職で役立つ
「将来は銀行以外で働きたい。」と考えているなら簿記はおすすめの資格です。簿記2級以上取得しておけば転職に役立つと言われることも多いです。
銀行に勤務経験があれば、一般企業の経理担当の求人に採用される可能性が高いです。経理業務と簿記は相性が良いため学んでおいて損はありません。
簿記は一度取得すれば生涯有効で、経理職への転職にも役立ちます。
簿記が苦手な人はどうすればいい?
銀行で働くなら簿記2級までは取得しておきたいところ。とはいえ学生の頃に簿記の勉強をしたことがない方が大半だと思います。このため簿記の勉強に苦手意識を感じる方もいるかもしれません。
「簿記を勉強したんだけど、なんだか苦手・・・」という方は無理せず、他の資格を勉強しましょう。
- 法務の勉強をする
- 預かり専任担当を目指す
法務の勉強をする
「学生の頃から暗記科目が得意だった。」「数学は苦手で・・・」という方にあえて簿記はおすすめしません。簿記2級の計算は難しくありません。それでも苦手と感じる方も多いです。
簿記の勉強は「ハマる人はハマる」「無理な人はどうしても無理」と2極化しがち。研修で勉強して「自分には合ってないな。」と思った方は法務知識の勉強をしましょう。
法務知識が必要なコンプライアンス部や監査部などの専門部署でキャリアを積むこともできます。
コンプライアンスや法律の知識は奥が深く、勉強しがいがあります。
資産運用の専門部署で働きたい
資産運用の専門部署で働きたいならば、簿記の知識よりも投資や税金の知識が求められます。
預かり資産担当や資産運用の関連部署でのキャリアアップするなら、FPや社労士、証券アナリストなどを勉強しましょう。
資産運用や税の知識を深めれば、将来的には転職や独立も視野に入ります。
簿記よりも税や資産運用の勉強の方が「わかりやすい」と感じる方もいるのでは?
融資業務のおすすめ勉強法
簿記の資格は融資業務と深く関わっています。しかし簿記に合格した知識が融資業務に役立つわけではありません。
さらに財務分析について学ぶ必要があります。
簿記を勉強した後は財務の勉強をしよう
「簿記3級に合格した!座学で学んだ知識を実務に活かすぞ!」と意気込んで融資実務に。
でも財務データや決算書を読んで「簡易C Fってなんだ?償還可能年数ってどこを読めばわかる?」と実務で悩む方も多いでしょう。
簿記の勉強ができるからといって、与信判断や稟議意見が書けるようになりません。さらに勉強が必要です。
簿記3級を習得した後は銀行業務検定の財務の勉強をしましょう。まずは4級か3級を受験しましょう。
与信判断の勉強ができる書籍
審査で必要な知識を勉強したいなら「[融資力]5分間トレーニングブック」がおすすめです。
設問ごとに財務指標が与えられ、与信判断と解説が述べられるという構成。実例を通して与信判断のどこが重要なのか、簿記・財務の知識をどのように活かすのかがわかります。
本書で「見送る」との判断に「これは採り上げてもいいじゃないのかな。」とツッコミながら学べます。
ただ内容は簿記の3級から2級程度を理解した中級者向け。簿記や財務の知識を理解した上で読むことをおすすめします。
少し古い書籍ですが、融資を担当する際に何度も読み返した良書です。
稟議意見に悩んだらこの本
融資業務に必須の稟議意見は言い回しや言葉遣いが独特です。「支払い懸念なきものと思料する。」「貸出金額は許容の範囲と判断する。」という言葉は普段使いません。
「簿記の知識があっても、稟議意見をどう書けばいいかわからなくて困るなぁ。」
そんな方におすすめの書籍が「事例で学ぶ融資稟議の進め方」です。稟議意見の例が紹介されていて、実務で使える知識が学べます。
ヒアリングや支店長との合議が会話形式でリアルに描かれていて、融資担当初心者にもおすすめの内容です。
簿記と銀行業務検定の財務
簿記と銀行業務検定の財務は融資業務に必要な財務分析が学べるという点で似ています。
簿記と比較すると銀行業務検定の財務は実務的な知識が問われる試験です。しかし簿記の知識がないと財務分析の計算式は理解できないでしょう。
初学者の方は財務よりもまずは簿記を勉強を優先するのがおすすめ。
簿記と相性の良い資格
銀行業務検定の財務
簿記を勉強した後は銀行業務検定の財務でより実践的な知識を身に付けましょう。
銀行業務検定の法人融資渉外
サイト紹介
当サイトでは銀行員の方に役立つ試験情報の解説もしています。あわせてご覧ください。
おすすめの資格試験について次の記事でまとめています。スキルアップに興味がある方はぜひご覧ください。